俳句が趣味の人にとって、どんな季語を使うかという問題は大いに関心をそそられることでしょう。
そんな季語の中の一つに野分という言葉があります。日常生活で使われることはなくなった言葉であるだけに、一般的にはあまり知られていない言葉です。
でも俳句の世界や手紙などの時候の挨拶としてはまだまだ現役ばりばりの言葉なんですよ!
そんな野分という言葉はいつの季語なのか?どういう意味なの?などなど、調べてみたら大変興味深い事柄に行き当たりました!実はかの有名な源氏物語にも関わっていたことが分かったんです。
それでは是非最後までお付き合いくださいね。
野分の季語としての意味
ズバリ、野分とは9月頃に吹く強い風のことを指す言葉です。俳句などでは秋の季語に分類されます。読み方は「のわき」または「のわけ」です。
野の草を分けるように吹きすさぶ秋の暴風のことですので、今でいうところの台風の風と考えて差し支えないでしょう。
台風の風といえば、ピューピューと独特の音を立てて右か左からと目まぐるしく方向を変える特徴があります。普通の強風とは明らかに違いますよね。
そんな特徴的な吹き方の風に対して、昔の人は特別な名前を付けて呼んだのでしょうね。
さて、では野分が季語として使われる季節をさらに細かく見ていきましょう。
野分の季節は初秋
野分という季語は9月上旬に用いるのが適切です。四季をを初、中、晩と三つに分ける昔の言い方に倣うなら初秋となります。
というのも、野分は立春(2月4日前後)から数えて210日~220日の時期によく吹くとされてきたからです。これはまさに台風シーズンの真っただ中にあたり、前述のように「野分とは台風の風のこと」とする根拠でもあります。
この野分を季語として用いた俳句について調べてみたところ、とてもたくさん出てきました!誰もが知っているあの人が詠んだものもありましたので、ぜひ続きをご覧ください。
野分を季語に使った有名な俳句
野分を用いた俳句で有名な物を紹介していきます。
- 野分して盥(たらい)に雨を聞く夜かな (松尾芭蕉)
- 鶏頭(けいとう)の皆倒れたる野分かな (正岡子規)
- 野分して蟷螂(とうろう)を窓に吹き入るる (夏目漱石)
- 大いなるものが過ぎ行く野分かな (高浜虚子)
- 鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉 (与謝蕪村)
このように、野分という季語だけでも有名な俳人、作家、詩人が詠んだものが沢山あります。
関連して、「野分晴」「野分後(跡)」といった季語を用いたものも見てみましょう。
- 野分晴よろこぶ皓歯沼へ対(む)け (中村草田男)
- 野分晴れて手負の蝶の低く飛ぶ (正岡子規)
- 野分跡暮れ行く富士の鋭さよ (川端茅舎)
野分晴(のわきばれ)とは、野分が止んだ後に訪れる澄み切った晴れ空のことです。台風一過の青空と同じですね。また野分跡(のわきあと)とは野分の後の荒れた様子を指す言葉です。
昔から秋の台風は日本人にとって避けられない災害であるとともに、季節とともにやって来る年中行事みたいなものだったんでしょうね。
季語として使われることが多いけど間違った季節に当てはめられる言葉として、「五月雨」「小春日和」「朝顔」などがあります。有名な句のエピソードも紹介して楽しい記事に仕上げましたのでぜひご覧下さい!
ところでこの野分という言葉、平安時代にはすでに使われていたことが明らかになっているんですよ。続きをご覧下さいね。
源氏物語にも登場する
野分はかの有名な源氏物語の巻にも題名として採用されています。源氏物語と言えば平安時代に紫式部が表した世界最古の女流文学として世界中から高く評価されています。
その源氏物語の第28帖のタイトルが「野分」となっているのです。内容ももちろん、野分つまり秋の暴風が関わってきます。そんな源氏物語「野分」のあらすじを紹介していきます。
夕霧が野分(強い突風)のお見舞いに六条院を訪れます。その際、夕霧は紫上を垣間見てすっかり紫上に夢中になってしまいます。
紫上を垣間見てしまい、夢中になっていることが父である源氏にばれてしまいますが、次の行動に移せないでいました。
夕霧は後日、玉鬘の所を訪れた際、またしても玉鬘の美貌に驚きますが、源氏と玉鬘の親子関係を超えた行動に動揺してしまいます。
女性たちの美しさを花に例え、動揺しつつも雲居の雁に手紙を書きます。
源氏物語は西暦1001年~1005年頃に著されたとされています。その頃にはすでに野分という言葉があり、貴族社会では通用していたと推測できます。
まとめ
いかがでしたか?野分という季語にまつわる話をいろいろと紹介してきました。
現代でも手紙などの時候の挨拶として使うこともあります。「野分の候、いかがお過ごしでしょうか」などと挨拶文のあるお便りは教養と風流を感じさせるかも知れませんね!
それでは今回の記事の内容をおさらいしておきましょう。
- 野分とは9月頃に吹く暴風のことを指す秋の季語です。
- 野分の季節は9月上旬の初秋にあたります。
- 野分を季語に用いた有名な句を紹介しました。
- 野分という言葉は源氏物語にも登場しています。
現代では日常的に使うことがない言葉だけに、俳句などで使うときにはこうした知識をきちんとチェックしておきたいものですね!
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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