私が子供の頃、まだスマホなんて誰も持っていなくて、電話は家の黒電話か公衆電話しかありませんでした。かかってきた電話は「もしもし、○○です」と応答していた覚えがあります。
あなたは電話を取るとき、どんな言葉で会話を始めますか?
私用のスマホに友達からかかってきた電話なら、「もしもし~、○○くん?」って感じでしょうか?掛けてきた相手の名前は分かるから、もっとシンプルに「はい」くらいで済ます人も多いかもしれませんね。
大人になってこの「もしもし」を仕事の電話で使うのは失礼だと知って、衝撃を受けませんでしたか?私には大いに衝撃的でした。
でもよく考えると、「もしもし」って変な言葉ですよね。それ自体に意味はないのに、電話だとつい言ってしまいます。
この「もしもし」ってどんな意味があるの?なぜ電話だけなの?二度繰り返す理由は?などなど、気になる疑問への答えを探してリサーチをしてみました。どうぞ御覧ください!
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電話交換手の業務から始まった
1890年に日本で電話が開通した当時、「電話交換手」が相手に失礼に当たらないようにとの理由で、「もしもし」と呼びかけをしてから繋いだのが始まりであるとの説が有力です。
「もしもし」は「申します、申します」が転訛した言い方です。いきなり本題を切り出すのではなく、「これから話しますよ」と一呼吸置くことで相手に心構えを作る時間を与えるという配慮の結果と言えます。
また当時の電話機は性能が悪く、本題に入る前に深い意味のない「もしもし」という呼びかけで電話の聞こえ具合を調節する、という意味もあったようです。
今はあまり聞かない「電話交換手」って何でしょうか?Wikipediaからの引用です。
交換手(こうかんしゅ 英:Telephone operator)とは、手動式電話網において、発呼者の音声での要求により電話を着信先に接続する業務(電話交換)である。
(出典:フリー百科事典『Wikipedia(ウィキペディア)』)
現在のように電話がダイレクト的に相手に繋がらず、交換手を通して繋いでもらっていた当時の、業務上のサービスの一環だったという訳です。
「電話での始まりは分かったけど、『もしもし』という言葉自体もその時に作られたの?」と思いませんか?更に調べてみると意外なことが分かってきました。
「もしもし」はいつから使われていた?
「もしもし」の元となった「もうしもうし」という呼びかけの言い方は室町時代から使われていました。
島根女子短期大学の1996年研究紀要の「室町時代談話の研究(その二)ー呼びかけの表現ー」という論文の中に以下の記述があります。
丁寧な呼びかけの表現としては、「物申(ものまう)」または「申々(まうしまうし」「申(まうし)」が一般的だった。
(出典:島根女子短期大学1996年研究紀要「室町時代談話の研究(その二)ー呼びかけの表現ー」)
「申々(まうしまうし)」は「申(まうし)」を重ねて用いた形で、「申(まうし)」よりも念を押した強い言い方となる。
申々おやどにござるか、太郎冠者が参つた(大・墨塗(すみぬり)/太郎冠者→女)
(出典:同上)
「もしもし」という呼びかけの言葉の原型は500年以上も昔に遡ることになります。また「呼びかけの言葉」という機能自体は現代でも大きく変わらずに生きているわけですね。ちょっとビックリしませんか?
だけど、「もし」って一言でも十分に呼びかけになっていそうな気がするのに、そもそもなぜ同じ言葉を2回繰り返す必要があるんでしょうか?
2回繰り返す理由は妖怪にあった
「もしもし」と2回繰り返して呼びかけとする理由は、妖怪に呼びかけられたと思われないためだというのが有力な説です。
妖怪が人間に呼びかける時には同じ言葉を繰り返さないとする、「一声呼び(一声叫び)」という民間伝承があります。以下、Wikipediaからの引用です。
一声呼び(ひとこえよび)または一声叫び(ひとこえさけび)は、岐阜県大野郡の山間部に伝わる民間信仰。
山中の妖怪が人に呼びかける時には一声しか声をかけないといわれるもので、このことから山中で働く人々は、お互いを呼ぶ際に一声のみで呼ぶことを禁じられ、必ず二声続けて呼ぶよう戒められている。
(出典:フリー百科事典『Wikipedia(ウィキペディア)』)
この民間伝承が伝わり、「もし」と一声で呼びかけられたらそれは妖怪だから応えるな、「もしもし」と二声ならそれは人間だから応えてよし、となったと推測できます。
怪異や言霊といった信仰がまだ大きな意味を持っていた昔では、こうして災いを遠ざけるという切実な意味があったんですね。
興味深いことに「もしもし」には民間信仰が関係していたことが分かりました。本来の意味が失われた現代でも、「もしもし」という呼びかけ方そのものが生きているのは面白くありませんか?
さて、現代でも電話で「もしもし」と応答することはあります。でも場面によってはこれは失礼に当たるとも言われています。それは本当なのでしょうか?
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ビジネスシーンでは不適切
ビジネスで電話を受ける時やかける時、「もしもし」と切り出すのは失礼にあたるというのが一般的な考えとして浸透しています。
その理由は、「もしもし」は「申します、申します」の略語だからというのが通説です。
確かにビジネスの会話で略語を多用することは相手に不快感を与える行為です。株式会社を(株)なんて表記するのは以ての外!などと新入社員の頃に叩き込まれませんでしたか?それと同じだという訳です。
でも、明治の頃は電話交換手が「失礼にあたらないように」といって始まった「もしもし」が、現代では却って失礼な呼びかけにあたるというのはなんだか引っかかりますよね。
言葉の使い方は時代とともに目まぐるしく変わっていくという好例です。
では代わりにどの様な言葉を使うべきなのでしょうか?
こちらから電話をかける時
こちらから電話をかけたときには次のようにするのが適切です。
- 「株式会社○○の○○と申します。いつもお世話になっております。」
まず名乗り、簡単な挨拶として「お世話になっております」と告げればいいでしょう。「もしもし」を言う余地はありません。
かかってきた電話を取る時
電話を取るときの表現は次のようにします。
- 「はい、株式会社○○、○○(自分の名前)が承ります。」
- 「お電話ありがとうございます。株式会社○○でございます。(以下同上)」
といった具合で取るのが失礼のない方法ですね。
まとめ
いかがでしたか?普段何気なく使っている「もしもし」ですが、以外に深い背景がありました。あなたの疑問解消のお役に立てたでしょうか?以下にまとめておきます。
まとめ
- 「もしもし」は「申し上げます、申し上げます」が転訛した呼びかけの言葉です。
- 明治時代に電話交換手が使い始めたのが、電話での挨拶の始まりと言われています。
- 「もしもし」の原型の「もうしもうし」は室町時代には使われていました。
- 2回繰り返すのは「一声呼び」という民間伝承に起源があります。
- ビジネスシーンでの「もしもし」は不適切です。
- 代わりに使うべき表現を記載しました。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
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